岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す⑲
【概要】
江藤淳が中上健次『千年の愉楽』を絶賛し、大庭みな子『寂寞』と比較しながら「形のないもの」を描く点で両者を高く評価していたと紹介する。中上作品に登場するオリュウノオバという路地の産婆が「声」によって物語を伝承する存在であり、文字による分節化以前の世界を体現していると論じ、江藤がこの「声」の世界に儒教や仏教以前の日本的秩序を見出していたと指摘する。また、中上における血統へのこだわりについて、路地とは血や差別と結びついた土地であり、中上自身が被差別部落出身者としての経験から「血」の問題を描き続けたと分析する。さらに、江藤の批評文体が短く論理的であるのに対し、中上の文章は長く陶酔的であり、ポストモダン思想の影響を受けた柄谷行人らとは異なる文脈で「声」を重視する独自の文体を持っていたと総括している。
【参考文献】
中上健次『千年の愉楽』
大庭みな子『寂兮寥兮』
江藤淳『自由と禁忌』
大江健三郎『セヴンティーン』
大江健三郎『政治少年死す』
【キーワード】
『千年の愉楽』/「形のないもの」/オリュウノオバと声の世界/文字と声の対比/路地と血統へのこだわり/被差別部落出身/治者の世界と法律/ポストモダンとの決定的違い/中上の陶酔的文体/江藤の論理的短文
