月刊正論10月号に岩田温の論説が掲載されました!

考察・保守主義「社会契約論という愚民思想」

【概要】
ルソー『社会契約論』における「立法者」概念の危うさを検証する。ルソーによれば、大衆は自らの真の利益である「一般意志」を必ずしも認識できない愚かな存在であり、それゆえ人々を正しい方向へ導く超越的な「立法者」が不可欠だとされる。この立法者は個人の自我を社会全体に溶け込ませ、「共同の自我」へと人間を作り変える権能を持つとされ、社会全体のために個人を犠牲にすることも厭わない思想が展開される。続いて、ルソーが理想の立法者の実例として称賛した古代スパルタのリュクルゴスの生涯と統治を、プルタルコス『英雄伝』やマキャヴェリ『ディスコルシ』を引きつつ詳述し、私有財産の否定や子供の共同管理・徹底した集団教育など、全体主義的とも言える統治手法を紹介する。最後に、リュクルゴスが自らの法を永続させるために死を選んだ逸話を通じ、ルソーの立法者論がフランス革命の指導者たちの革命思想に連なる危険性を論じている。

【参考文献】
ジャン=ジャック・ルソー『社会契約論』
ジャン=ジャック・ルソー『人間不平等起源論』
プラトン『法律』
プルタルコス『プルタルコス英雄伝』
マキャヴェリ『ディスコルシ』

【キーワード】
ルソー『社会契約論』/立法者/一般意志と愚民思想/共同の自我/リュクルゴス/スパルタの混合政体/私有財産の否定/集団教育・共同食制度/マキャヴェリ/革命思想への継承

月刊日本9月号に岩田温の論説が掲載されました!

岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す⑲

【概要】
江藤淳が中上健次『千年の愉楽』を絶賛し、大庭みな子『寂寞』と比較しながら「形のないもの」を描く点で両者を高く評価していたと紹介する。中上作品に登場するオリュウノオバという路地の産婆が「声」によって物語を伝承する存在であり、文字による分節化以前の世界を体現していると論じ、江藤がこの「声」の世界に儒教や仏教以前の日本的秩序を見出していたと指摘する。また、中上における血統へのこだわりについて、路地とは血や差別と結びついた土地であり、中上自身が被差別部落出身者としての経験から「血」の問題を描き続けたと分析する。さらに、江藤の批評文体が短く論理的であるのに対し、中上の文章は長く陶酔的であり、ポストモダン思想の影響を受けた柄谷行人らとは異なる文脈で「声」を重視する独自の文体を持っていたと総括している。

【参考文献】
中上健次『千年の愉楽』
大庭みな子『寂兮寥兮』
江藤淳『自由と禁忌』
大江健三郎『セヴンティーン』
大江健三郎『政治少年死す』

【キーワード】
『千年の愉楽』/「形のないもの」/オリュウノオバと声の世界/文字と声の対比/路地と血統へのこだわり/被差別部落出身/治者の世界と法律/ポストモダンとの決定的違い/中上の陶酔的文体/江藤の論理的短文

月刊正論9月号に岩田温の論説が掲載されました!

考察・保守主義「狂気を生む『国民の意志』の論理

【概要】
ルソー『社会契約論』の中核概念「一般意志」の危険性を検証する。まず「一般意志」を「個別意志」や単なる多数決である「投票の数」と区別し、共通の利益を志向する構成員全体の意志として位置づけるルソーの理論を確認しつつ、その具体的な現れ方が不明確であるという根本的欠陥を指摘する。続いてカール・シュミットの議論を援用し、「一般意志」の空白を埋めるものとして独裁的指導者が現れやすいこと、実際にワイマール共和国崩壊後のナチス・ドイツにおいて同様の論理が機能した歴史的事実を示す。さらにロベスピエールが「一般意志」を掲げてフランス革命の恐怖政治を正当化し、共同体の危機を口実に独裁権力を無期限に容認する論理を導いた経緯を詳述し、福田歓一の解釈も参照しながら、「一般意志」という抽象的概念が容易に全体主義や恐怖政治に転化する危うさを警告している。

【参考文献】
ジャン=ジャック・ルソー『社会契約論』
カール・シュミット『現代議会主義の精神史的状況』
福田歓一『ルソー』

【キーワード】
ルソー『社会契約論』/一般意志/個別意志・全体意志/カール・シュミット/ワイマール共和国/ナチス・ドイツ/ロベスピエールと恐怖政治/独裁の正当化/中間組織・自治団体/福田歓一の解釈

月刊日本8月号に岩田温の論説が掲載されました!

岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す⑱

【概要】
江藤淳が大庭みな子『寂寞』を高く評価し、大庭が学生時代からアメリカ文学に親しみ、老子や道教哲学にも通じていた点で江藤と共通の関心を持っていたと紹介する。江藤自身が老子の「道」に若い頃から関心を寄せていた経緯に触れ、谷崎潤一郎『鍵』と大庭『寂寞』を比較しながら、谷崎が乱倫と荒廃を通じて秩序崩壊後の世界を描いたのに対し、大庭は名づけえない混沌そのものを描いたと論じ、江藤がこの「名前のない世界」に強く共感していたと指摘する。さらに江藤の「治者」概念を援用し、統治や秩序を失った世界を描く文学の意義を論じつつ、ニーチェの「三様の変化」やドストエフスキー『罪と罰』を引きながら、混沌から新たな秩序と創造性が生まれる過程にこそ人間の本質があると述べる。最後に、暗黒や死を見つめることによってのみ人間は真の秩序を回復しうるという江藤的な問題意識を確認している。

【参考文献】
大庭みな子『寂兮寥兮』
大庭みな子『三匹の蟹』
谷崎潤一郎『鍵』
江藤淳『自由と禁忌』
老子『老子道徳経』
フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはこう語った』ドストエフスキー『罪と罰』

【キーワード】
大庭みな子/『寂寞』/老子の「道」/谷崎潤一郎/『鍵』/名づけえない混沌/治者の文学/秩序と荒廃/ニーチェ/「三様の変化」/ドストエフスキー/『罪と罰』/荒廃からの創造/暗黒と死の凝視

月刊正論8月号に岩田温の論説が掲載されました!

考察・保守主義「人は何のために生きるか」

【概要】
ルソーの『社会契約論』における論理破綻を検証する。まずホッブズの社会契約論を確認し、共同体は構成員の生命保存を目的とするが、他人の生命を守るためであれば自らの生命を犠牲にすることも合理的でありうるとルソーが論じた点を紹介する。続いて、国家防衛のために死を求めることと「他人のために死ぬ生命の方が自分の生命より価値がある」という論理の矛盾を指摘し、ルソーがこの破綻を自覚しつつ「公民宗教」という装置を持ち出し、祖国のために死ぬことを宗教的義務として国民に強制しようとした過程を詳述する。さらに公民宗教を信じない者を追放し、時には死をもって罰するという不寛容な処方と、キケロやカトーの「不死の魂」を求める古代的死生観との対比を通じて、ルソーの思想が全体主義体制の理論的先駆けとなった危険性を論じている。

【参考文献】
トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
ジャン=ジャック・ルソー『社会契約論』
アントニー・ビーヴァー『スターリングラード』
キケロ『老年について』
ドラッカー『産業人の未来』

【キーワード】
ルソー/『社会契約論』/公民宗教/祖国防衛と死の義務/不寛容と追放・処罰/ホッブズとの対比/キケロ/カトー/全体主義の理論的先駆け/宗教による国民統合/「善き市民」と「忠実な国民」

月刊日本7月号に岩田温の論説が掲載されました!

岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す⑰

【概要】
小島信夫『別れる理由』を野間文芸賞選考委員でさえ読み切れなかった作品として紹介し、江藤淳が「時が失われる」というタイトルに関するプルーストへの言及を取り上げつつ、この長大な作品を評価する困難さを語る。江藤の小島論については、『自由と禁忌』や『成熟と喪失』で展開されたアメリカ論との関連性を指摘し、小島の文体がアメリカの影響を受けた「身の部分」への執着を持つ点に江藤が注目していたと論じる。また、『別れる理由』が通時的な時間軸を拒否し、過去と現在が併存する独特な文体を持つことを紹介し、江藤自身の文体もそれに少し似ていると指摘する。さらに、夏目漱石『坊っちゃん』『それから』『明暗』などを引き合いに、漱石が問題を解決せず読者に委ねる文学的姿勢を継承した作家として小島や江藤を位置づけ、後世に残る文学とは何かという問いを投げかけている。

【参考文献】
小島信夫『別れる理由』
江藤淳『自由と禁忌』
江藤淳『成熟と喪失』
夏目漱石『坊っちゃん』
夏目漱石『それから』
夏目漱石『明暗』
夏目漱石『吾輩は猫である』
三島由紀夫『鏡子の家』

【キーワード】
『別れる理由』/野間文芸賞選考/プルースト/アメリカ論と小島文学/通時的時間の拒否/過去と現在の併存/夏目漱石の系譜/問題を解決しない文学/後世に残る作品/江藤の文体との類似

月刊正論7月号に岩田温の論説が掲載されました!

考察・保守主義「国家は何のためにあるか」

【概要】
本稿は「国家は何のためにあるか」と題し、ホッブズの国家論における国防の論理的位置づけを検証する。まずロバート・ケーガンのネオコン的国際政治観と、カントの「永遠平和のために」との対比を通じ、国際社会における「自然状態」の扱いを整理し、ホッブズ自身が国際政治について明確に論じなかった点を指摘する。続いて『リヴァイアサン』を精読し、国家が国民の生命と安全を守るために成立するという論理を確認しつつ、外敵からの侵略に対する国防義務がホッブズの社会契約論において意外にも希薄であることを詳しく検討する。特に「暴力的な死への恐怖」を国家設立の根拠としながら、兵士に臆病さを理由とした戦線離脱の権利を認めるホッブズの論理が、国家防衛の責務と自己保存の権利との間で矛盾を孕んでいることを示す。最後に、ホッブズが結局「貴族の徳」を全面否定しきれず、勇気という徳の必要性を認めざるを得なかった逆説を、バークとの対比も交えて論じている。

【参考文献】
ロバート・ケーガン『ネオコンの論理』
イマヌエル・カント『永遠平和のために』
トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
レオ・シュトラウス『ホッブズの政治学』

【キーワード】
ホッブズ/『リヴァイアサン』
国家防衛の論理/暴力的な死への恐怖/臆病と戦線離脱の権利/貴族の徳/国際政治とネオコン/カント/永遠平和のために/自然状態/社会契約論の矛盾