考察・保守主義「キリスト教を憎悪した革命」
【概要】
フランス革命が保守主義の観点からも宗教的自由・平等・博愛の理想を裏切るものであったことを論じる連載第三回である。革命政権が制定した聖職者民事基本法により、聖職者は選挙で選出され国家の管理下に置かれ、宣誓を拒否した「不宣誓司祭」への弾圧を通じてカトリック秩序が破壊された経緯を示す。続いてヴァンデ地方の内乱を取り上げ、徴兵令や宗教弾圧への反発から蜂起した住民に対し、革命政権が女性や子供を含む住民を虐殺し、皮革工場での人体利用など常軌を逸した蛮行に及んだ実態を、複数の資料に基づき詳述する。さらに、こうした虐殺を「正義」の名の下に正当化する革命家の論理や、反キリスト教情念が内乱の一因であったとする歴史研究者の見解を紹介し、フランス革命の暴力性と宗教的迫害の実相を浮き彫りにしている。
【参考文献】
ピーター・マクフィー『フランス革命史』(白水社)
森山軍治郎『ヴァンデ戦争』
【キーワード】
保守主義/フランス革命/ヴァンデの反乱/聖職者民事基本法/カトリック教会/革命権力/恐怖政治/宗教弾圧/伝統的共同体/革命思想
岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す④
【概要】
江藤淳が小林秀雄をめぐって「政治をめぐる転向」と「文体論をめぐる転向」という二つの転向を主張していた点を整理し、自身は小林秀雄の「存在」の中で反省しない姿勢を鋭く追及したと語る。江藤は『小林秀雄』において、小林の思想と実体の関係を徹底的に問い、「作家は行動する」を書いた頃から一貫して「存在」の問題にこだわっていたと指摘する。特に『ひかりごけ』評をめぐり、江藤が武田泰淳との対談で人肉嗜食という行為を端的にイメージ化する小説の手法を高く評価していたことに触れ、江藤にとって「存在」とは「我在り、しかしなにゆえに」という根源的な問いであったと論じる。さらに、小林秀雄の翻訳や近代化論を通じて、日本の開化が「上滑り」であったという小林の指摘を江藤も継承しつつ、戦後日本において「存在」を追求できるかどうかという課題こそが江藤淳を貫く思想の核心だったと総括している。
【参考文献】
江藤淳『小林秀雄』
江藤淳『作家は行動する』
武田泰淳『ひかりごけ』
小林秀雄『Xへの手紙』
夏目漱石『現代日本の開化』
小林秀雄『近代絵画』
小林秀雄『ドストエフスキイの生活』
【キーワード】
小林秀雄と江藤淳/二つの転向(政治・文体)/「存在」への追求/『ひかりごけ』/作家は行動する/近代化と上滑り/翻訳と近代絵画論/武田泰淳/ドストエフスキー論
考察・保守主義「フランス革命は進歩にあらず」
【概要】
革命礼賛の風潮とバークによる批判を対比しつつ、フランス革命史の実像を検証する連載第二回である。バークは『フランス革命の省察』において、抽象的権利を掲げて旧体制を暴力的に破壊した革命の粗暴さを批判し、ペインらの反論を退けた。続いて、歴史を目的論的必然とみなす「歴史主義」の誤りを指摘し、ルイ十六世が実際には啓蒙的で寛容な、開明的な君主であった実像を紹介する。バスティーユ牢獄襲撃の実態や、群衆が扇動によって暴徒と化していく過程、ロベスピエールによる恐怖政治への傾斜、マリー・アントワネットへの残虐な虐殺などを詳述し、革命が理想とは裏腹に大量殺戮と混乱をもたらしたことを示す。最後に、王の処刑を正当化した革命家の言説を引きながら、狂気に満ちた革命の暴力性を改めて浮き彫りにしている。
【参考文献】
エドマンド・バーク『フランス革命の省察』
トマス・ペイン『人間の権利』
スタール夫人『フランス革命文明論』
ピーター・マクフィー『ロベスピエール』
ピーター・マクフィー『フランス革命史』
ジャン=クリスチャン・プティフィス『ルイ十六世』
ジュール・ミシュレ『フランス革命史』
【キーワード】
フランス革命/エドマンド・バーク/歴史主義批判/ルイ十六世/バスティーユ牢獄襲撃/ロベスピエール/恐怖政治/マリー・アントワネット/進歩史観への批判
岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す③
【概要】
江藤淳の「転向」批判を巡り、小林秀雄との対談を機に江藤が『作家は行動する』を書き上げた背景を語り、江藤は「私」を大切に生きた誠実な作家であり、単純に転向したとは言えないと擁護する。さらに『危険な思想家』での松原新一の江藤淳論批判に触れ、「安全な思想家」という括りに反発しつつ、江藤の言説自体は変化しても、自己の内的誠実さを保ち続けた点にこそ価値があると強調する。イデオロギーに完全には生きられない現実の中で、父・子・胡麻を養う日常を持ち出しながら、純粋なイデオロギーだけで生きる人間は非現実的であり、むしろ生活と思想を両立させることこそ重要だと説く。また、真理は永遠には掴めず、常に問い続ける姿勢こそが思想家の誠実さであるとし、江藤の生涯全体を通じてその一貫した態度を高く評価している。
【参考文献】
江藤淳『作家は行動する』
江藤淳『成熟と喪失』
中野重治『村の家』
吉本隆明『転向論』
西尾幹二『歴史の真贋』
三島由紀夫『英霊の聲』
三島由紀夫『憂国』
【キーワード】
江藤淳の「転向」/誠実と役割/小林秀雄/危険な思想家/イデオロギーと現実/松原新一/吉本隆明/生活と思想の両立/真理は永遠につかめない/一貫性より誠実性
考察・保守主義「根本的な間違いは…」
【概要】
「保守」という言葉が安易なスローガンとして濫用される現状を批判し、真の保守主義とは何かを問う連載第一回である。宇野重規や仲正昌樹の概説書を紹介しつつ、両者の議論には政治哲学的な深みや、制度への根源的な愛着が欠けているとの違和感を提示する。続いてハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』をめぐる論争を取り上げ、アイヒマンの弁明やユダヤ人指導者への批判を通じて、アーレントに「ユダヤ人への愛」が欠如していたとされる経緯を検討する。さらに坂本多加雄の議論を引きつつ、昭和天皇の御平癒祈願の記帳に見える国民的共同体意識や、祖国を愛する心情こそが保守主義の基盤だと論じ、精神論ではなく具体的な帰属意識に根ざした保守思想の必要性を訴えている。
【参考文献】
宇野重規『保守主義とは何か』
仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』(新潮選書)
エドマンド・バーク『フランス革命の省察』
デイビッド・ヒューム『人間本性論』
ウォルター・バジョット『イギリス憲政論』
ハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』
『アーレント=ショーレム往復書簡』
坂本多加雄『象徴天皇制度と日本の来歴』
【キーワード】
保守主義/エドマンド・バーク/制度(インスティテューション)/漸進的改革/ハンナ・アーレント/『イェルサレムのアイヒマン』/悪の陳腐さ/ユダヤ人への愛/坂本多加雄/帰属意識/愛国心
山崎行太郎×岩田温 今こそ「江藤淳」を読み返す②
【概要】
岩田は、江藤淳自身も非対称性を意識しつつ、日本文学とユネスコ本部で行った日本文化講演をまとめた『日本文化の対称性と非対称性』を著しており、これは西洋文学との比較を試みた著作だと紹介する。また江藤の「はじめに言葉ありき」への疑問を軸に、混沌を尊ぶ姿勢と「私」への強いこだわりを指摘し、柄谷行人『探求Ⅱ』が指摘する「一般の私」と「この私」の区別を用いて、江藤・漱石における「私」の特殊性を検討する。さらに、脱構築が本質的に混沌への向き合いを回避しがちだと批判し、江藤は矛盾を抱えたまま生き抜いた点で脱構築者とは異なると論じる。加えて、政治の混沌を生きた政治家自身の態度と文学者の姿勢を対比し、江藤の「文学は政治に近くなくてはならない」という考えに触れながら、江藤淳を今こそ読み返す意義を強調している。
【参考文献】
江藤淳「日欧文化の対称性と非対称性――美術と文学と」
江藤淳『戦後と私』
江藤淳『アメリカと私』
ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
柄谷行人『探求』
フリードリヒ・ニーチェ『悦ばしき知識』
夏目漱石『吾輩は猫である』
【キーワード】
はじめに言葉ありき/混沌と秩序/柄谷行人/日本文化の非対称性/脱構築批判/荘子/夏目漱石/文学と政治/矛盾を生き抜く姿勢
岩田温×山崎行太郎 今こそ「江藤淳」を読み返す
【概要】
江藤淳を「戦う保守」として高く評価し、浅田彰ら当時の若手論客に対しても容赦なく切り込んでいった緊張感ある言論の担い手だったと指摘。江藤淳没後25年を機に著作が相次いで復刊される意義を強調し、今日の日本の退廃は、江藤が生前に発していた警鐘を忘れてしまった結果だとの共通認識を示す。また、主観や「私」を重視する姿勢こそ江藤の一貫した特質であり、客観性やエビデンス、ファクトチェックを絶対視する現代の風潮とは対照的だとして、私憤を突き詰めることでこそ公憤に至るという江藤の思考法に強く感動したと語る。さらに、江藤が留学先アメリカへの憧れと批判という両義的な感情を抱き続けた点に触れ、西郷隆盛・勝海舟をめぐる「勝者」「敗者」論を手がかりに、日本人が忘れがちな古典への向き合い方を問い直すべきだと訴えている。
【参考文献】
江藤淳『海舟余波』
江藤淳『南洲残影』
江藤淳『戦後と私・神話の克服』
江藤淳『アメリカと私』
江藤淳『批評と私』「ペンの政治学」
江藤淳『漱石とその時代』
エドマンド・ウィルソン『愛国の血糊』
【キーワード】
江藤淳/戦う保守/占領/検閲/私憤と公憤/存在論的思考/「私」/西郷隆盛/勝海舟/アメリカ
